本漆か新漆か

年が明けてから、いくつかご新規の器をお預かりさせて頂いたのですが、その際に本漆と新漆のお話になりましたので少しご紹介したいと思います。

私が習い始めた頃に比べると金継ぎ師の方もだいぶ増えましたが、近くでやってくれるところを…と検索して当工房へ持ち込みをして下さる方が多く、とてもありがたいです。団地の一室でひっそりと開いている工房ですので、そんなに沢山はできませんが、マイペースにやらせて頂いております。

私が金継ぎに使用しているのは、基本的に「本漆」です。漆の木から頂いた、とても貴重な樹液です。元々、樹の汁ですので、自然なもの、環境にやさしそう、土に還りそうなものになります。実際はその堅牢さゆえ、2000年前に塗られた漆の塗膜が発掘されたりするそうで、意外と土に還らないのかも?と思ったりもしますが…。製造過程で科学的な処理はほとんど行いませんし、サステナブルな感じがしますね。

一方で、最近とても増えているのが、「新漆」を使った金継ぎです。こちらは化学的に合成された塗料で、漆のようにかぶれることがないため、扱いが簡単というのが一番の特徴です。ただ「新漆」の、特に色漆は安全性がハテナ?です。「顔料に有害な物質を含む」と、はっきり製品ホームページにも書かれているので、食器への使用は注意が必要となります。

「本漆」「新漆」、どちらが優れているとかはありません。それぞれに長所と短所があります。どちらを使用しても、同じような仕上がりになるので、あとは考え方次第というところでしょうか。

私は昔から、環境への関心が高く、なるべく自然と調和する方法を考えてきたような人間なので、なるべく自然に近いものを使いたいということで、本漆を使わせて頂いています。

細々とやらせて頂いているお教室でも、本漆を用います。(その際には、しっかりかぶれ対策を行います)

修理をどこに頼もうか、迷ってらっしゃる場合の何かご参考になれば幸いです。

まるでお料理

欠けたお皿を直す時、よく使うのがこちら。

はい、白玉粉でございます。

これを水で溶いて、弱火にかけてコトコト音がしてきたら、一気に練り上げてお餅を作ります。あ、でもお餅を作ることが目的ではなく、お餅状になった白いネバネバを糊として使うのが目的です。

お餅状の米糊ができたら、漆と混ぜます。練り練りしてきてダマがなくなったら、糊漆の完成です。そこにコクソと呼ばれる綿の小さな繊維を混ぜたり、木粉や砥の粉など混ぜたりしてさらに練り上げたら、器の欠けを補修するのに用います。糊は炊けている真っ白なご飯があれば、それを練ってもいいですし、小麦粉でもいいのです。※外のサイトなど見ると、小麦粉がやっぱり最強みたいです。

糊漆を作る過程は、まるで料理のよう。食べられるものがそのまま材料になるのだから、面白いです。漆はもちろんそのまま食べたら大変なことになるけれど…、乾けば無害。樹木から頂いた天然の塗料と、農作物である穀物の力で、器をくっつけていきます。

本漆のこと

金継ぎが何年か前からブームのようになり、初めての方でも、難しい知識なしに始められるキットが東急ハンズなどでも手に入るようになりました。私はそういった品物を使ったことがないのですが、どうやら手に取りやすいキットのなかには本漆ではなく、石油を原料とした合成漆を使用しているものも少なくないようです。

手軽に始められるし、安価だし、なによりかぶれの心配がありません。入り口としてはとてもいいと思うのですが、石油由来なので食器への使用は、色々と心配が残ります。

その点、やはり天然素材の漆は安心です。

私が使用している本漆は、師匠の藤原啓介さんからすすめられた播与漆行さんのもの。漆はとても伸びがいい塗料(?)なので、私のように細々と作業している程度だと、この一本がしばらくもちます。

注意書きには、冷暗所または冷蔵庫で保管して下さい。と、あります。漆は生きています。夏場は特に、酵素の働きが活発になるため暑いところに放置しておくと発酵がすすみ、腐ったり、漆チューブが爆発することがあるとかないとか。

腐るのも嫌ですが、爆発したら怖すぎるので、私の漆の定位置は、我が家の冷蔵庫のすみっこです。なかなかシュールな画ですね。

かぶれの心配もあるし、保管の心配もあるし、水彩絵の具のようにサッと出してパッと塗って…というわけにはいきません。それなりに扱いにくいので、やっぱり最初は合成漆のほうがいいのかも?^^;

でも漆が、扱いにくいのは、漆が生きている塗料だからです。

漆が面白いのも、生きている塗料だからかもしれません。

修理は基本的に本漆を用いて行っております(合成樹脂は使用していません)

仕上げについては、金・銀・真鍮と色漆などに対応しております。ご依頼される方の

意向を伺い、その都度、相談のうえで決めていきたいと考えております。

<ご依頼までの流れ>

まずはじめに画像などで破損の状態を拝見し、仮見積もりをさせて頂きます。その後

修理品を直接お持ちいただくか郵送して頂き、見積額を決定、修理となります。

<修理・メンテナンスできないもの>

当工房では、ガラス製品についてはお断りさせて頂いています。技術が追いついたら

お受けできるようになるかも知れません。その他、器の状況によりお断りする場合も

ございますことをご了承ください。