2019年10月の記事
まるでお料理
欠けたお皿を直す時、よく使うのがこちら。
はい、白玉粉でございます。
これを水で溶いて、弱火にかけてコトコト音がしてきたら、一気に練り上げてお餅を作ります。あ、でもお餅を作ることが目的ではなく、お餅状になった白いネバネバを糊として使うのが目的です。
お餅状の米糊ができたら、漆と混ぜます。練り練りしてきてダマがなくなったら、糊漆の完成です。そこにコクソと呼ばれる綿の小さな繊維を混ぜたり、木粉や砥の粉など混ぜたりしてさらに練り上げたら、器の欠けを補修するのに用います。糊は炊けている真っ白なご飯があれば、それを練ってもいいですし、小麦粉でもいいのです。※外のサイトなど見ると、小麦粉がやっぱり最強みたいです。
糊漆を作る過程は、まるで料理のよう。食べられるものがそのまま材料になるのだから、面白いです。漆はもちろんそのまま食べたら大変なことになるけれど…、乾けば無害。樹木から頂いた天然の塗料と、農作物である穀物の力で、器をくっつけていきます。
本漆のこと
金継ぎが何年か前からブームのようになり、初めての方でも、難しい知識なしに始められるキットが東急ハンズなどでも手に入るようになりました。私はそういった品物を使ったことがないのですが、どうやら手に取りやすいキットのなかには本漆ではなく、石油を原料とした合成漆を使用しているものも少なくないようです。
手軽に始められるし、安価だし、なによりかぶれの心配がありません。入り口としてはとてもいいと思うのですが、石油由来なので食器への使用は、色々と心配が残ります。
その点、やはり天然素材の漆は安心です。
私が使用している本漆は、師匠の藤原啓介さんからすすめられた播与漆行さんのもの。漆はとても伸びがいい塗料(?)なので、私のように細々と作業している程度だと、この一本がしばらくもちます。
注意書きには、冷暗所または冷蔵庫で保管して下さい。と、あります。漆は生きています。夏場は特に、酵素の働きが活発になるため暑いところに放置しておくと発酵がすすみ、腐ったり、漆チューブが爆発することがあるとかないとか。
腐るのも嫌ですが、爆発したら怖すぎるので、私の漆の定位置は、我が家の冷蔵庫のすみっこです。なかなかシュールな画ですね。
かぶれの心配もあるし、保管の心配もあるし、水彩絵の具のようにサッと出してパッと塗って…というわけにはいきません。それなりに扱いにくいので、やっぱり最初は合成漆のほうがいいのかも?^^;
でも漆が、扱いにくいのは、漆が生きている塗料だからです。
漆が面白いのも、生きている塗料だからかもしれません。
棄ててしまう前に・・・
この夏にお直しさせて頂いたお椀から、色んなことを学びました。よく使い込まれた拭き漆のお椀です。
私の手元に来たときは、もう塗装がおちて肌がカサカサしていて、器の内側の底面には油じみがありました。そして亀裂が一か所。器の胴体の腰あたりまで深く入っていました。これで毎日のようにお味噌汁を入れたのかな。たくさん使ってもらって、たくさん働いたことが、その様子を見ているだけでも伝わってきました。
このお椀の場合は、傷みも大きかったので、拭き漆の上塗りではなく、一度すべて研磨して表面に残っている塗装をすべて落とし木地の状態に戻してから、もう一度最初から塗り直すことになりました。
そして、大きな亀裂は綿布を当ててその上から漆を塗りこむ「布着せ」という手法で補強しました。こうしておけば、これ以上ヒビが大きくなることもないですし、デザイン的にもアクセントになって渋かわいいです。
実は布着せ初挑戦だったのでドキドキしましたが…。拭き漆も塗りあがってみると、来た時とは比べ物にならないくらいしっとり肌に生まれ変わり、本来の美しさを取り戻しました。また一つ勉強になりました。ありがとうございます。