この夏にお直しさせて頂いたお椀から、色んなことを学びました。よく使い込まれた拭き漆のお椀です。

私の手元に来たときは、もう塗装がおちて肌がカサカサしていて、器の内側の底面には油じみがありました。そして亀裂が一か所。器の胴体の腰あたりまで深く入っていました。これで毎日のようにお味噌汁を入れたのかな。たくさん使ってもらって、たくさん働いたことが、その様子を見ているだけでも伝わってきました。

このお椀の場合は、傷みも大きかったので、拭き漆の上塗りではなく、一度すべて研磨して表面に残っている塗装をすべて落とし木地の状態に戻してから、もう一度最初から塗り直すことになりました。

そして、大きな亀裂は綿布を当ててその上から漆を塗りこむ「布着せ」という手法で補強しました。こうしておけば、これ以上ヒビが大きくなることもないですし、デザイン的にもアクセントになって渋かわいいです。

実は布着せ初挑戦だったのでドキドキしましたが…。拭き漆も塗りあがってみると、来た時とは比べ物にならないくらいしっとり肌に生まれ変わり、本来の美しさを取り戻しました。また一つ勉強になりました。ありがとうございます。